ホテルの廊下にて
後ろ手を組んだ女がその手先で狂った呪文をやる。
あの女はわたしから離れてどんどん先を歩いて行ってるはずなのに背面のままでこちらににじり寄ってくる気がしている。
きっとあの手の動きのせいだ。
人を落ち着かなくさせる。
こわい、こわいぞ。
と、急に女は手を勢いよく振りほどくや否やその場で垂直にスキップをした。
右手と右足を前に
左手左足は後ろに
そのままの形で軽く宙を見上げたまま女は宙で止まった。つまり浮いている。
そのようにこちらからは見える。
女の先には白い光が絶え間なく続いている。青空と白雲が壁紙のように切り取られた白い光の扉の端で違う時限の流れの中へ斜めに飛んでいった。
女はどこへ行きたかったのか。
私はその扉形に切り取られた白い光が溢れる世界から漏れる強い風の音を直に耳に聞いた。
女の顔は正面から見てはいけない気がしたから、私はしばらく途方に暮れていたのだった。